研究戦略
高谷・水谷研究室では,ものづくりの基盤技術となるマイクロ・ナノメートルオーダの加工および計測に関する研究を行っています.
「挑越(ちょうえつ)」を研究室理念として掲げ,現状に安住することなく果敢に〝挑み”,困難をのり〝越え”,自己を〝越える”べく研究に取り組んでいます.
機械学習や深層学習などAI技術を用いた加工計測に関する研究を世界に先駆けて行っており,次世代のものづくりをリードしています.
レーザ応用ナノ計測技術
大気中でレーザトップした直径数マイクロメートルの球をプローブとして3次元形状計測を可能にした.また,マイクロ球をレンズとしても用いることで,微小の欠陥が検出できる.これらを組み合わせることでハイブリッド計測を実現した.
試料表面で散乱した光の位相を基に表面トポグラフィを求めるレーザ逆散乱法に取り組んでいます.光源として光周波数コムを導入することで,多数の正確な周波数情報に基づいて,高い分解能かつ広いダイナミックレンジを有した3次元表面トポグラフィ計測を実現することができます.
ガラスの表面に存在する微小な亀裂(マイクロクラック)の幾何パラメータ(深さ,長さ,方向など)は,レーザをマイクロクラックに照射したときの後方散乱光が形成する周期的なパターンから求める事ができます.また,クラック周辺の応力状態の変化を分子構造の変化としてとらえ,その変化をラマン分光法で計測することにも取 り組んでいます.これにより,クラックの幾何パラメータの情報ばかりでなく,今後クラックが進展するかどうかを判断することも可能になります.
レーザ応用ナノ加工技術
フォトニックナノジェットと呼ばれる小さいビーム径と長い焦点深度を両立した特殊な光ビームを用いて,サブマイクロメートルスケールの加工分解能を有したアブレーション加工を実現しています.また,アブレーション加工時に発生する衝撃波をその場計測することで,加工の進行状況(加工径,深さ,体積など)をインプロセスで計測する研究にも取り組んでいます.
タルボ効果という回折格子に平面波を入射することで得られる周期的な光強度分布を感光性樹脂に転写することで,ナノメートルスケールの構造を数十ミリメートル角の大面積に一度に作製することができます.回折格子に入射する光の振幅と位相を制御することで,より複雑な形状の作製も可能になります.
ナノ計測システムの製造・組み立て技術
工具に付着した切削液は工具刃先形状の光学計測の際に妨げになります.したがって,高精度な形状計測のためには切削液を除去する必要があります.しかし,切削液にレーザを照射することで発生する蛍光の検出によって,切削液が付着したままの状態で工具刃先形状の計測が可能です.これにより,工具刃先の形状計測において工具を工作機械から取り外すことなく,オンマシンでの計測が可能になります.
AI・量子光学に基づいた次世代精密計測法
機械学習や深層学習というとブラックボックスのような印象をもたれ,それをもとに出力された計測結果をどう解釈していいか悩むところです.こういった懸念から,深層学習を計測に導入することは避けられてきました.ここでは,ブラックボックスを解き明かすために,物理的な解釈のもとにディープラーニングのモデルを構築し,計測に応用する研究を行っています.さらには,ディープラーニングを導入した計測の不確かさの評価についても取り組んでいます.
ゴーストイメージングはシングルピクセルイメージングの一種であり,カメラなどの2次元のセンサに結像する方法とは全く異なるイメージング方法です.被撮影物体に2次元のランダムパターンを照明したときの散乱光をフォトダイオードなどの1画素の検出器で計測します.照明パターンと散乱光強度の相関計算を行うことで,微弱な散乱光からも高感度にイメージングすることが可能になります.このゴーストイメージングにおける画像の再構成過程の物理的解釈に基づいて深層学習モデルを独自に構築し,高速かつ高解像度なイメージングを実現しています.
「 古典的な光には見られない量子的な相関を持った量子もつれ光子対を用いた新たな精密計測に関する研究に取り組んでいます.量子もつれ光子対には,例えば運動量のもつれや偏光のもつれが存在します.このような特殊な量子的相関をもった量子もつれ光子対のうち1つの光子を計測対象に照射し,もう一方の光子と同時計数することで,古典光を用いた従来の計測では実現できない計測を実現します.このような計測が次世代の精密計測を担うべく,研究に取り組んでいます.
光のスピンホール効果とは,光が試料表面上で反射する際に,光子の軌道角運動量とスピン角運動量の相互作用が生じ,光線が境界面で空間的にシフトする現象です.光線のシフト量は偏光状態の変化に依存するため,シフト量を計測することで,偏光計測が可能です.エリプソメトリの原理に基づいて偏光計測で得られた情報から,薄膜の厚さや粗さなど試料の表面性状を計測することができます.